The sun rises again.

フィクション

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なんてことはない火曜日だった。朝起きてからランニングして、オフィスに行くといつもの通り上司は遅刻していて、お昼には近くの定食屋で同期とご飯を食べ、突然降ってきた仕事にひいひい言いながらなんとか片付けて。

そして二年ほど付き合っていた女性と別れた。 別れを切り出したのは僕の方だった。いつもの通り僕の家の近くの汚い居酒屋で酒を飲んでいた。彼女は中ジョッキの、僕は大ジョッキ1Lの麦酒を飲んでいた。いつもならさっくり飲めてしまうのにその日はなんだか喉に支えるような感じがしてこれをすべて飲み干すのは困難なのではないかと思われた。 彼女と会うのは久しぶりだった。曰く三週間ほど会っていなかったらしい。らしいといったのは僕はその三週間という期間を数えていないし前回会ったのがいつだったのか、そして何をやったのか何を話したのか全然覚えていなかったからだ。それは別に彼女に興味がないとかもう嫌いになったとかそういうのではなく、そもそも人とあった記憶を覚えておくことが難しいのだった。そしてそれは彼女も例外ではなかった。

三週間会わなかったこと、連絡が滞りがちだったことに彼女は不満があるようであった。途中数回会う約束はしていたけど、何か他の予定が入ったり僕が体調を崩したりして流れていた。

会えないのは別にかまわないけれど会えなかったことに対してとくに残念そうな感じもないし、こちらから連絡をしても帰ってこないし、急に予定をキャンセルされたりするしそういうのは良くないよね、と彼女は言った。

これももっともな主張であろう。僕が逆の立場であっても同じことを言うだろう。会えなかった日のツイッターに「今日は一日寝ていたから勉強できなかった」などと言われるとこの人は自分と会うことよりも大事なことで頭が一杯で、ないがしろにされていると思うだろう。それは当たり前だし僕のデリカシーはまったく足りていなかった。

その相手の反応に対して僕は何も言うことはないし僕が悪いのだと思う。

では僕はこの自分の行動を直すことは出来るのだろうか、そもそも直す気はあるのだろうかと考えたとき、それはNoであった。僕は明らかに、彼女と会うよりも家で寝ていたいと思うし、勉強をしていたいのだった。別に彼女が嫌いなわけではない。むしろ好きだといえるけれど、でも彼女の優先順位と僕のそれとは大きな乖離があるのだった。

僕は彼女と付き合い始めたときそれはそれは楽しい気分になったし、すごく幸せな気分になった。今思うとあれは、日頃なれない環境に飛び込んでただ興奮していただけのようにも感じられる。あれが男女の愛であったのかどうかについて、僕は未だにこたえを出せないでいる。愛とは何なのか、僕にはよくわからない。

付き合いましょうと言ったのは僕であった。終わりにしましょうと言ったのもまた僕であった。最初から最後まで彼女は僕に振り回されて、そしてそれに対しては文句を一言も言わなかった。

嫌いでないのになぜ別れなければならないのか説明責任を果たしてほしい、と何度も懇願された。

僕としてもそれに答えたい気持ちはあるが、僕としてもそれに明確な答えを出すことはできない。 ドラマか小説ならば僕が悪いのだ、あなたを嫌いになってしまった、とかなんとか言っておけば、僕が一発殴られたりするかもしれないがそれでその二人の仲が終わってピリオドとなるのだろう。しかし僕は彼女に嘘をつくことはできなかった。 それは好きとか嫌いとかはわからないけれど、人間として彼女のことをとても尊敬していて、そんな人に明確な意思を持ってウソを付くことができなかったからだった。それは僕が責任を逃れているからだという意見も方方から聞こえてきそうだしそうかもしれない。でも嘘はつきたくなかった。本心を話したかった。それが彼女に対する礼儀であるように思われたからである。

わたしは納得していない、と言われたが僕はそれを無視して最後の別れを告げた。

この判断が良かったと自信を持つまでにはもうしばらく時間がかかると思われるが、後悔はしていない。これは最良の判断であったと、僕は思っている。良い人と付き合えて僕は幸せだった。最後まで彼女はとても美しい素晴らしい人であった。