The sun rises again.

フィクション

インフルエンザ

その日は久しぶりに高校の同期と旅行に出かけていた。

学生最後の休みを故郷の四国で遊ぼうと企画された旅行で、前々日には市内を駆けまわって松山城、分校ラーメン、母校、そして道後温泉と飛び回り、前日はレンタカーを借り、四万十川で川遊びをしたあと高知のひろめ市場で延々と酒を飲んでいた。

頭の痛さで起きたのは、朝の1時頃である。異様に頭が痛い。宿酔をして頭が痛くなることはまずないから、これは酒だけのせいではないとすぐに気がついた。同時に体じゅうの関節が痛む。そして喉が痛いし、起き上がるとふらふらする。そして体が火照っている感覚がある。これはただの宿酔ではないなと思いながら、洗面台に行き顔を洗い、手洗いを水に濡らして額にあてて熱冷ましとして寝ようとしたが、なかなか寝られない。とにかく頭が痛いのである。そのまま寝たか寝てないかよくわからないまま唸り続け、朝になった。あの時ほどぐうぐういびきをかいて快適そうに眠っている友人を恨んだことはない。朝になっても事態は回復せず、朝飯を食べるような元気もないまま、私の体調を憂慮した友人たちの手によって、愛媛に強制送還されることとなった。

私はもちろん体調が悪いため、もう一人運転できる友人が運転をすることになった。私は後部座席で死んだように虚ろになっていた。なにせ頭が痛くて全く眠れないので、結果徹夜のような状況になってしまっているので、体調不良と相まっていろいろな事柄への精神的耐性が極限まで下がっているため、高速道路の揺れすら恨めしい。

人間は余裕がなくなると刺々しくなってしまう、脆い存在である。苦しさを紛らわすため友人たちへ話しかけ続けていたけれど、相当に失礼な物言いをしたような気がしてならない。ここで謝ったところで全く意味はないのだが、申し訳無さでいっぱいである。今後合う機会があれば、必ず謝っておこうと思う。

家に帰ってきてとりあえず眠ればどうにかなると思っていたが、眠っても全く事態は良くならず、ついに病院にいくこととした。病院につくと、土曜日であることもあって、私以外の患者は老人もしくは赤ん坊だらけであって、20代の患者は私一人であった。明らかに私は浮いていた。

受付の看護婦の扱いも「君なら別に死なないだろうになぜ来たんだ」と言わんばかりのぞんざいな対応であったが、それも尤もであると思った。なにせ私以外が死にそうなのである。その後、検査までだいぶ待たされたが、死にそうなぐらいに痛い頭を抑えながら「私は後でもよいのでもっと大変な人から見てやってください」とずっと思っていた。冷静に考えれば、私自身その時は40度に近い熱を出していたから、十分に重篤な状況ではあったのだが、40度の熱でうなされた頭ではそのような冷静なことも考えることができず、中途半端な悟りを開いたような状況に陥っていた。結局順番通りに見てもらい、インフルエンザA型であると診断をされた。インフルエンザにかかるのはおそらく高校生の時以来である。

インフルエンザと確定すると感染を予防するため私だけ一人別の部屋に隔離され、そこで待たされることになった。その待ち時間で暇なので、インフルエンザに関する統計情報を見ていると、やはり20代の感染者の数は他の世代に比べて圧倒的に少ないことがわかった。これは若いから元気である、ということもあるだろうが、若いがゆえに少々の熱が出ても病院に行かないし病院に行くことがめんどくさいという2つの要因が重なった故であろう。実際インフルエンザにかかっている私も空き時間にネットで統計情報を見るぐらいの余裕はあるわけで、かかっても仕事なりなんなりを無理やりこなす人が多く、実際に病院に来るような人はまれなのかもしれない。

その後、薬を3種類処方された。ひとつはインフルエンザに対する薬、ふたつめは抗生物質、最後は漢方薬である。西洋的な薬と漢方を混ぜて処方されることは初めてであったため驚いたが、この病院ではいいとこ取りをするためにあえてこのような処方をするとのことであった。

インフルエンザの薬は最近開発された薬で、その場で吸引するだけで良いとのことであった。合計2本の薬を吸引し、それで終了で、こちらもなんだかあっけに取られた。昔はリレンザとかいう薬を毎日家で吸引していたような気がするが、薬も進歩している。

後は家に帰ってひたすら寝るだけであるが、やはり頭が痛いのは相変わらずで、その後1日ちょっとは頭痛がひどく、大変に苦しい時間であった。どこで移ったのだろうかと考えていた。自分の周りにはインフルエンザにかかったという人は見たことがないので、おそらく道端ですれ違ったひとか飲食店かなにかでもらってきたのであろうと思われるが、一番の原因は私の体力がなくなっていたことにある。そしてこれの原因はいうまでもない、修士論文が悪いのである。修士論文ゆるすまじ。