The sun rises again.

フィクション

こころ

気づけば2018年になっており、もうすぐ僕は年を取る。年をとったからと言って何が変わるわけでもない。だた数字の上でまたひとつ年を取り、死へと近づいているだけである。

最近の話をしよう。一番変わったことは去年と比べてとても太ってしまったということだ。見た目には変わらないとみなはいうが、実際体重計に乗れば体重は5キロは増えており、腹にはだらしがない肉が付いている。原因はわかりきっていて、大して肉体を使わない仕事なのにもかかわらず大量の昼飯を食い、そして夜には酒を飲んだあと、そばとかパスタと言って炭水化物を食べるからである。

いくら週に23回10キロほどランニングをしたところで、僕は普通の人よりもたくさん食べている。故に太る。食べる量が増えたのは多分、食べるという行為が簡単に快楽を得られる方法であるからであると思う。食べるとその時はとても気分が良い。楽しい。快適だ。お酒が加わればなおさらである。

問題は、食べるために食べているというか、楽しくなるために食べていることだ。僕は決して「お腹が空いているから」食べているのではないのだ。

正直言って少々食べなくったって人間は死なない。飢餓で死ぬことは日本ではほとんどない。そのとき、食べるという行為は何を意味するかといえば、お腹を満たすということよりも食べることで心を満たすという意味合いが強くなってくる。僕はたくさん食べることによってたくさん心を満たそうと必死に食べているような気がする。

ここまで記述して思ったが、僕は完全に摂食障害なのだろうと思う。なぜこうなってしまったのかはよくわからない。その一端にあるのは、人間として生きていくことがとてもしんどいということにあるのだろうと思う。

毎日会社に行く。誰か他の人と喋る(これは仲が良いとかそういうの関係なく)。こういうふつうのコトがしんどい。まず家の外に出ることがとてもしんどい。まずシャワーを浴びて綺麗にして、ドライヤーで癖がつかないように髪を乾かす。シャツにはアイロンをして、汚らしくないズボンを履く。歯をみがいたあとにはマウスウォッシュをする。そこまで終わったらワックスで髪を整えて、鏡の前で服装がダサくないか確認する。

服がちょっとでもダサいとか、髪型がいい感じになっていないとか、顔が膨れているように見えるとか、ちょっとでも気になってくると途端に出かけたくなくなってくる。もうこうなってしまうとダメで、出かけなくてはならない時間になっても延々と鏡の前であーだーこーだやっている。自分でやりながら病気だなと思うけれどやめられないのは、本当に病気なのかもしれない。

ようするに僕は周りを気にしすぎているのだ。正確には周りに馬鹿にされない、下に見られないよう自分を取り繕うので必死になっている。自分が馬鹿である、という評価をもらうことを極端に恐れている。

だから服装とか以外でも、知らないことを知っているように見せかけたり、ちょっと見栄をはって嘘をついたりする。大して考えて嘘を言っているわけではないからすぐにバレるとわかっているのに。でも口が勝手にうそを喋ってしまう。そうしないと僕の自我が保てないからだ。

 

「みんな僕を見て、すごいと言ってよ。」

 

端的に言うとそんなどうしようもない欲求で、僕はできている。みんな少しはそういう気持ちはあるだろうけれど、それの度合いがどうしようもなく、大きいのだ。

馬鹿になれたのならば、正確には馬鹿になっても僕は存在しても大丈夫なのだ馬鹿でも良いのだという確信を持って生きていけるのならば、どれだけ楽に生きて行けるだろうか。そう考えることもよくある。頭ではそうやって生きたほうが良いとわかっているのに、できない。

これも僕の悪い癖だ。そうやって言葉だけ並べてやったほうがいいのになーとか言っているくせに、本気でやる気は全く無いのだ。そういえば去年、好きな女の子と一緒に遊びに行って一緒に晩ごはんを食べている時に同じような話になって、その子に「そうやって口ばっかり喋って。本気でやる気はないのでしょう?」と説教されたことを思い出した。あれは相当応えたけれど、言われて仕方がないぐらい僕はくよくよと口ばかりであったので、至極当然の発言であったと思うし、むしろ優しい発言だったと思う。せっかく言ってあげたのだから直してもう一回来いよという叱咤激励だと勝手に解釈したが、まだもう一度リベンジするほど僕はカイゼンされていないし、そもそも一回断られてから言い直すほど僕には勇気はないのだった。

「あーまたそうやって言い訳してる」

僕の中の彼女がまた囁いている。うるさい、僕だって困っているのだから、一緒に考えてくれたって、いいじゃないか。なんでそうやって僕を攻めるんだ。

「そんなに肯定してほしいの? すごーい!かっこいい!あたまいい!すきー!」

そうじゃないんだなあ。言い訳してしまう根源的原因を探って直してほしいんだと言っているだけど。

「そんなの、あなた、すでにわかっているんじゃないの? ちゃんと心を見なさい。本気でね。」