The sun rises again.

フィクション

結婚式

先日人生で初めての結婚式に出席した。

結婚するのは、今度働くことになる会社の社長さんである。今まで結婚式に参加したことがなかったので、誘われたときには、ついに結婚式に出られる、という興奮で即是に参加します旨を伝えたのであったが、日にちが迫ってくると色々な準備に追われることになった。まずどういう格好をしていいのかがわからない。ご祝儀はいくらぐらい入れればよいのか、祝儀袋はどこで買えばよいのか、靴はどれで行けばよいのか、コートを着ていってもよいのか、などなど。結婚式とか葬式のようにフォーマットが決まっているものは、最初に参加する人が必ず困るのだから、学校で教えてほしかったなと思いながら、インターネットを使って見よう見まねで、失礼にならない格好、形式を準備する事になった。

著物は就活のときに使っていた黒い目のスーツでごまかすことにして、一番困ったのが祝儀袋である。だた入れ物を買って中にお金を入れれば良いと思っていたが、どうやら自分の名前と入っている金額とを書かなくてはならないらしい。しかもお金は新札であるのが望ましいとある。これに気がついたのは土曜日の夕方であって、銀行はどこも空いておらず、そして手元には新札なんぞ一枚もなかった。手元にある現金の中で一番綺麗だったのが、両親から先日ご祝儀として頂戴した修了祝金であった。その中から、適当に奇麗そうなものを数枚抜き出し、アイロンでスチームを全力にして伸ばして、新札に偽造することにした。お札をアイロンしたのはこれが人生で初めてであし、そもそも別の人からのご祝儀をそのまま流用するのも如何なものかと思われたが、他の方法が無いのであるから仕方がない。元はといえば、平日に準備を開始して銀行に行かなかった私が悪いのである。諸悪の根源は私の怠惰である。

つぎに祝儀袋を用意しなくてはならない。コンビニに行けばあるだろうと思い近くのファミリーマートにいくと、案の定文房具のコーナーのはずれに置いてあった。怠惰な人間にとって、大変便利な世界である。祝儀袋と、筆ペンとを買い求めて、見よう見まねで、住所と「金参萬園」と書いた。なれない「萬」の字がきれいに書けたと思っていたら、油断したのか、自分の名前がとてつもなく下手くそになってしまった。しかしもう書き直すことはできない。表に見えるのは、ヘッタクソな名前の部分であって、比較的きれいに書けた金額の部分ではないのだ。全くもって格好がつかないが、かえって結婚式が初めてであることの象徴であるようにも思われた。

結婚式当日。シャツのシワが気になって改めてアイロンをかけたり、スーツのホコリが気になってガムテープでホコリをとったり、靴の汚れが気になって磨き直したりしていたら、余裕のはずの電車の時間に危うく遅れるところであった。最寄り駅まで走って事なきを得たが、次回は前日にアイロンをかけ、ホコリを払い、靴を磨こうと思った。
式の開始時刻直前に会場に付き、受付をする。新婦の関係者であろうか、美しい女性が受付をしてくれた。この人にダサい祝儀袋を出すのがとても恥ずかしかった。その格好悪い祝儀袋を見た上司が、祝儀袋は百貨店で買えるしそこで代筆もしてくれるよと教えてくれた。そんなことインターネットにはどこにも乗っていなかった。おそらく自分でかいたださい祝儀袋を出したのは、私一人であろう。Googleに騙されたと、僕は思った。次回は大丸で祝儀袋を買おうと思った。

結婚式はとても良いものであった。式場に現れた新郎は白いスーツがとてもかっこよく、凛々しかった。新婦は、綺麗なドレスを身にまといそして艶やかであった。お二人とも奇麗でそして幸せそうに見えた。
私は特に今までどちらの方とも深い付き合いをしているわけではない、ただ来年からお世話になる一端の平社員として呼ばれて居る。いわばほとんど他人枠での参加で合ったけれど、幸せな人達を見ているのはとても嬉しいことであった。二人が末永く幸せになって欲しいと、本当に思った。対それたことは私にはできないけれど、こういう幸せがたくさんある世界であって欲しいと、少々気障なことを思ったりもした。そうして私は披露宴で、尽く泥酔したのであった。

 

幸せなことは素晴らしいことである!!!!


George Winston / The Venice Dreamer: Part Two